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「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」が始動
HPVワクチンの啓発で悲しい現実を変えたい! 「みんパピ!」仲間募集中

2020/09/07
坂本昌彦(佐久総合病院佐久医療センター小児科)

 皆さま、はじめまして。私は「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」(以下、みんパピ!)に参画している、小児科医の坂本昌彦といいます。みんパピ!は、HPVヒトパピローマウイルス)に関する正確な情報を分かりやすく提供することを目的とした団体です。正確な情報を知ることで、結果として正しい選択(ワクチン接種率の向上)につなげるお手伝いをするために有志で立ち上げました。

 多くの方がご存じの通り、HPV感染が主な原因となる子宮頸癌(上皮内癌も含む)の多くは20~40歳代の女性が占めています1)。日本国内で、子宮頸癌で亡くなる方は1日8人、命は取り留めても治療のために子宮の摘出を余儀なくされる女性もたくさんいます。このことは妊娠・出産にも大きな影響を与え、少子化にもつながる問題です。またHPVが大きく関わっている疾患の中には中咽頭癌がありますが、この癌は圧倒的に男性にできやすいです2)。HPVワクチン接種でこの癌を減らすことができるため、HPVワクチンは男性にとっても癌予防ワクチンと言えます。

 その一方、日本におけるHPVワクチンの接種率は低迷しています。海外では70~80%、比較的低いとされる米国でも60%を超える接種率の中、日本はわずか0.6%と大きく低迷しているのです3)

 その理由は、メディアなどでこのワクチンの副反応が繰り返し大きく報道され、厚生労働省もそれに押されて積極的勧奨を一時的にやめてしまったことが大きいと考えられています。HPVワクチンは怖いものだ、という強い印象が世間に植え付けられてしまったのですね。しかし、最近の多くの研究で、ワクチン接種群とプラセボ投与群で、重い副反応の発症率に差はなかったことが分かってきました4)

 思春期には心のストレスを言葉で表現することが苦手で、心のSOSが体の症状として表に出てくることがよくあります。頭痛や腹痛といった痛みの症状(心身症)や、「歩けない」「けいれん」といった転換性症状などです。私は小児科医で、そういった患者さんも外来で多く診ています。このような情報ももっと伝えていきたいと思います。

 これまでも多くの産婦人科医を中心とする医療者がHPVの啓発を行ってきました。しかし広く発信するだけでは関心のある人にしか届きません。安心できる、やさしい情報が確実に伝わることで行動変容につながればと思っています。

 そこで今回、産婦人科医、小児科医、行動科学の専門家が集まり、様々な工夫を凝らした啓発を始めることにしました。

 子どもの頃からのかかりつけ医として、信頼関係が既に構築されている小児科医による周知には、特に力を入れていきたいと考えています。HPV関連疾患が小児期に発生する病気ではないこと、HPVによる性感染症の教育にあまり関わる機会も少なかったなどの理由から、HPV啓発に参加する小児科医はそれほど多くありませんでした。ワクチンに対するネガティブキャンペーンを目の当たりにして消極的になった部分もあるかと思います。しかし、接種する本人やご家族の不安を受け止め、正確な情報提供を行うためには、もっとも近い場所でかかりつけ医として寄り添っている小児科医の役割は大きいと考えています。接種対象者(小学6年~高校1年)がほぼ小児科受診年齢である点、予防接種に慣れている点など小児科医が関わることで得られるメリットも多くあります。副反応といわれる症状に対して、多くの科学的な根拠が分かってきた最近では、啓発に関わる小児科医も少しずつ増えています。

 今回、この原稿を読んでいらっしゃる医療者の皆さんと協力して、HPVについての正確な知識を伝える活動の輪を広げていきたいと思います。先生方による啓発をサポートできるようなチラシ、受診者向けの動画コンテンツ制作、講演会、多くの人に届けるためのメディア広告などを企画していきます。

 小児科医をはじめとした、少しでも多くの医療者の皆さんのご協力をお待ちしています。

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みんパピ!公式ウェブサイト
みんパピ!クラウドファンディング

【参考文献】
1)国立がん研究センター「最新がん統計
2)国立がん研究センターがん情報サービス「それぞれのがんの解説(中咽頭がん)
3)WHO「予防接種・ワクチン・生物学的製剤統計」 
4) Cochrane Database Syst Rev. 2018;9;5:CD009069.

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著者プロフィール

経験を発信したい全国の若手医師や医学生たちのリポート、また、彼らに情報を届けたい皆さんからの寄稿を集めました。本コラムへの掲載を希望される方は、当サイトのお問い合わせ欄にお気軽にご連絡ください。

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