日本ではいまだにHPVワクチンの接種率が1%未満だね。どんな取り組みが接種率の回復に有効なんだろう? 実は海外でも、急激にワクチン接種率が落ち込んだケースがあるんだ。それに対して有効だった取り組みを紹介するね。
日本におけるHPVワクチン接種率は、2013年に70%から1%未満に急落し、回復がみられないまま7年間が経過しています。
HPVワクチンの接種率が減少した他の国で有効だった取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。
※ 専門的な表現も含まれていますので、分かりづらい表現がありましたら、以下の記事についてもご参照いたければ幸いです。
ワクチン接種率向上への取り組み
各国の取り組みの紹介
アイルランドの例
アイルランドでは、2010年に12~13歳の女児を対象としたHPVワクチン接種の学校プログラムが開始されました。
当初は80〜90%と高い接種率を維持していましたが、2016〜17年にすべての地域で1回目の接種率が約50%まで低下しました。
これには、2015年に設立されたロビー団体によって広められたワクチンの安全性に対する懸念が大きく影響したとされています。
彼らは強力なソーシャルメディアのプラットフォームを構築し、感情に訴えるような語りかけを用いて、メディアや政治家に働きかけたとされています。
これに対し、政府による専属機関の設立、SNSを用いた分析と情報発信、医療従事者に向けた包括的な教育プログラムなどが実施されました。
さらには、2017〜18年に、HPVワクチン接種を受けた女の子を取り上げたメディアキャンペーンが開始され、専門家組織や政治家たちの強い支持を得ました。
現在ではさまざまなグループがHPVワクチンの接種を推進しており、接種率は短期間で70%程度にまで回復したと報告されています1)。
アイルランドでは政府が率先して専属組織を作り、SNSやメディアを活用したんだね。接種率もすぐに回復したのはすごいなぁ。
デンマークの例
デンマークでは、1998〜2000年に生まれた女児のHPVワクチン接種率は約90%でしたが、2003年に生まれた女児の接種率は54%にまで低下しました。
これは、2013年からデンマーク医薬品庁へのワクチンに関する有害事象の報告が増えたと同時に、否定的な意見に注目が集まったことが主な理由と考えられています。
デンマーク政府は、HPVワクチンの安全性に疑問を呈する報道に対し、感情的に共感しにくい科学的な情報のみに頼ってしまっていたと考察されています。
そのため、こうした科学的な情報は国民に響かず、結果的に、感情的に揺さぶるような、HPVワクチンの安全性に疑問を呈する不正確な情報ばかりが広がってしまったようです。
しかし、その後医学や公衆衛生、がん学会などによる全国的なキャンペーンが展開され、SNSを用いてHPV感染症や子宮頸がん、HPVワクチンの情報が共有されました。
これにより、HPVワクチンの接種率は以前と同様の90%にまで回復しました2,3)。
アイルランド・デンマークの2国での取り組みの共通点
2国での取り組みの共通点は「政府機関の主導、SNSの活用、非専門家の目線での情報発信」です。
HPVワクチンの接種率の回復に成功した、アイルランドとデンマークに共通する点は何だったのでしょうか。
まとめると、 と言えます。 近年では誤った情報が大手メディアやソーシャルメディアを通じて急速に拡散されます。 これに対抗するには、やはりメディアの能動的な活用が不可欠だと考えられています。 学会などの専門機関や医療従事者も、SNSを用いた情報発信が求められる時代なのです。 さらに、非医療従事者である一般の方々の目線で情報を発信・提供することが必要です。 科学的に正しい内容であっても、非医療従事者が理解しやすく目に止まりやすい形式でなければ、十分に内容は伝わりません。 平易な言葉を使い、イラストや動画を活用するなどの工夫が重要です。 他国ではSNSを含むメディアを活用したキャンペーンにより、HPVワクチンの接種率が回復しています。 日本でもこれらの取り組みを参考にして、積極的で有効な情報発信が必要だと考えられます。 他の国でも日本と同じようなことがあったんだね。でも政府と研究者、医療従事者が協力して解決したのはすごいなぁ。 そうだね。日本でもそういった取り組みを参考にして、正確な情報を社会に広げていかなくちゃね。 執筆者 医師:重見 大介まとめ
引用文献