私が1人の産婦人科医として、HPVワクチンや子宮頸がん予防の啓発に取り組むようになったのは、2017年のことでした。
当時すでに、HPVワクチンの積極的勧奨が差し控えられ、ワクチンの接種率が1%未満に低迷してから丸4年以上が経過していました。
学会が再三にわたり厚労省へ要望書を提出しても事態は変わらない状況に、「産婦人科医としてこのまま見過ごすことはできない」と思い立ち、様々な啓発活動を手さぐりで続けてきました。
子宮頸がんは、好発年齢が比較的若く、20~30代で子宮頸がんのために子宮を失うことになったり、命を失う方もいらっしゃいます。
海外では、子どもが小さいうちに亡くなることもあることから“マザーキラー”とも呼ばれていますが、晩婚化が進んでいる日本では、結婚や妊娠前に子宮を失うことも珍しくありません。
子宮頸がんの撲滅も視野に入ってきている国がある中で、日本では子宮頸がんやその前がん病変の患者さんが減る見込みがなく、産婦人科医としてとてももどかしい思いです。
また、HPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頸がんだけではなく、男性の中咽頭がんなど、様々な病気の原因となることもほとんど知られていません。
情報が届いている人は、接種するかしないか選択できますが、情報すら届いておらず、接種を検討することもなく、無料で接種できる定期接種の期間を逃してしまっている方がものすごく多いのです。
産婦人科医としてだけでなく、1人の女性として、子宮頸がんで苦しむ女性を1人でも減らしたいですし、HPVが引き起こす病気の多くは予防しうるということをぜひ知ってもらいたい。
海外では当たり前に行われている男性への接種も、日本でも実現してほしいです。
そんな思いから、産婦人科医だけでなく、小児科医や公衆衛生の専門家と協力し、地道に、しかし着実に、正確な情報を広くお伝えしていく活動をしていこうと、有志でこの団体を設立するに至りました。
最近はわずかながらメディアの取り上げ方にも変化がみられ、定期予防接種の個別通知を送る自治体も増え、少しずつ少しずつ接種する方も増えてきている印象です。
しかしながら、1%未満だったワクチンの接種率がようやく1%こえた程度で、70-80%の方が接種している諸外国とはまだまだ比較になりません。
いまだ多くの方がHPVのことを知らない、HPVワクチンのことをよく知らないというのが日本の現状です。
私たちは、産婦人科医、小児科医、自治体の方々、学校の先生、そして市民のみなさまと、「みんなで知ろう」を合言葉に、HPVのことを学んでいく仕組みを作っていきます。
HPVが広く知られるようになり、HPVが引き起こす病気を予防することが、日本でも当たり前となる日を目指して、日々尽力していく所存です。
代表 稲葉 可菜子