ワクチンを打つことは大切っていわれたけど、体に悪いことが起きることはないのかなあ。
とても大切なことだね。ワクチンにはまれに体にとってよくないこと(副反応)が起こることがあるよ。副反応ってどんなものなのかを説明するね。
ワクチンを接種する時、その人は基本的に健康な状態です。だから、接種で体調が悪くなったら「打たない方がよかったのでは?」と思うのも無理もありません。
打った後に「副反応」が出る可能性があるのに、ワクチンを打っても大丈夫なのでしょうか?
※ 専門的な表現も含まれていますので、分かりづらい表現がありましたら、以下の記事についてもご参照いたければ幸いです。
複雑な体のしくみを対象にする医療には「100%」「絶対」はありません。
人間の体はとても複雑にできていて、同じ病気でも患者さん全員に同じ症状が出るわけではなく、薬の副作用も出る人と出ない人がいます。
このように医療の世界では「100%」とか、「絶対に」という言葉は使えません。薬もワクチンも100%安全なものはないのです。
ワクチンの接種により起こる反応には、免疫がついて病気にならなくなるプラスの反応とともに、マイナスの反応もあります。
例えば、発熱や接種部位が腫れるほかに、アレルギー反応(アナフィラキシー)を起こしたり、けいれんなどの症状を起こすことです。
「100%」という概念があり得ない医療の世界でワクチンを評価する際には、常にこの「プラス」と「マイナス」のバランスを検討し、マイナスがどこまで許容できるかを詳しく議論する必要があります。
そしてマイナスがあっても、それを遙かに上回るプラスがある場合に接種が勧められています。
もちろん、安心して接種を決めるには、どのようなマイナスの反応があるのかを冷静に知ることが大切です。
ここからは「マイナスの反応」について詳しくお伝えします。
副反応と有害事象の違い、ご存じですか?
ワクチン接種にともなう「マイナスの反応」にはいくつか名前があります。
「副反応」と「有害事象」です。この2つの言葉が示す意味と範囲は異なります。
「副反応」は、ワクチンが原因だと推察される場合に限られる反応をさします。
一方、「有害事象」は、副反応も含め、接種後に予期せず起きた不利益な現象すべてを指します。
したがって、有害事象には、ワクチンと関係なく、たまたま起こった健康被害も含まれます1)。
例えば、ワクチンを接種した日の晩の食中毒や、交通事故、乳幼児突然死症候群(SIDS)等も紛れ込んでしまいます。
副反応にはアレルギー反応やワクチンが原因の病気が含まれます。
副反応として以下のようなものが挙げられます。
- 局所反応(発赤、発熱、腫脹、疼痛)
ワクチン接種に伴い、接種した場所に起こる炎症です。
免疫反応をつけるというワクチンの目的からは避けられない反応で、多くは数日以内に改善します。
- アナフィラキシー
接種後30分以内に起こることが多いアレルギー反応です。
接種後に全身の蕁麻疹、腹痛や嘔吐、ぜいぜいなどの症状が急速に起こります。
頻度は非常に低いですが、緊急で処置が必要になるため、ワクチン接種30分間は多くの医療機関で経過観察が勧められています2)。
- ワクチンの成分が原因(アナフィラキシー以外)
ワクチンが原因で急性散在性脳脊髄炎(ADEM)やギランバレー症候群といった神経の病気や脳炎などの病気が起こることです。
頻度は極めて少ないものの、非常に大きな問題で、見過ごすことはできません。
なるほど。副反応と有害事象は違うんだね。ではワクチンを打った後に失神したり、けいれんした子のニュースを昔みたって母さんが言ってたけど、それはどうして起こるのかな?
有害事象には心身の反応や紛れ込みも含まれます
- 不安による心身の反応
10歳以上のお子さんや成人では失神が起きることがあります。
これは痛みや不安などで自律神経が刺激され、一時的に血圧が下がって意識を失ってしまったり気分がわるくなったりする反応です。
注射前に緊張していたり、これまで採血や注射で気分がわるくなったことがある場合は症状を起こしやすいため、心配な場合はあらかじめベッドに横になって接種することもできます2)。
接種後は背もたれのある椅子にゆっくり腰をかけ、30分ほど座って体調の変化を観察してから帰宅することが望ましいとされています3)。
- その他(紛れ込み)
好ましくない反応が予防接種のタイミングで偶然起きたものを指します。
食中毒や交通事故、乳幼児突然死症候群などもこの中に含まれます。
副反応疑い報告制度の解釈で知ってほしいこと
現在日本には、予防接種後に好ましくない反応を診察した医療機関が因果関係を問わず事例を届け出る報告制度(予防接種後副反応疑い報告制度)があります4)。
したがって、この報告は副反応と名前が付いていますが、実際には有害事象を対象としており、ワクチンとは関係のない紛れ込みも含めて報告されている点に注意が必要です。
「報告があるからこのワクチンは危険だ」というわけではないのですね。
有害事象の丁寧な検討と診察室での良好なコミュニケーションがつなげる安心と信頼
いずれにしても、有害事象が起きたときには、それが真の副反応なのか紛れ込みなのか、報告を集めて丁寧に検討していくことが、ワクチンへの信頼感を得るためには欠かせません。
接種後、帰宅した後も高熱や異常な反応が出た場合にはすぐに医療機関に相談してください。
そして医療者も受診者の不安に耳を傾け、丁寧な対応を重ねていくことが引き続き求められています。
医学は100%じゃないから副反応はゼロにはできないこと、それから有害事象と副反応の違いもよく分かったよ。
そうだね。あとは副反応のリスクが高いワクチンではないけれど、気になることがあったらすぐに医療機関に相談することが大切ってことなのね。
執筆者 医師:坂本昌彦
引用文献
- 高橋謙造:ワクチンの副反応と紛れ込み.小児内科50:1213-1217,2018
- 日本ワクチン産業協会:予防接種に関するQ&A集2019
- 日本小児科学会予防接種感染対策委員会.予防接種後の失神に対する注意点ついて
- PMDA.予防接種法に基づく副反応疑い報告