HPV(ヒトパピローマウイルス)が子宮の入り口(=子宮頸部)に感染してから、子宮頸がんの前段階(=子宮頸部異形成)を経て、子宮頸がんになるメカニズムをわかりやすく説明します。
※ 専門的な表現も含まれていますので、分かりづらい表現がありましたら、以下の記事についてもご参照いたければ幸いです。
HPVが子宮頸部(子宮の入り口)に感染すると、一部の人では感染した状態が長期間続き、子宮頸がんの前段階になってしまうことがあります
HPVは日常生活の中で遭遇する機会が多いウイルスで、日本でも10-20代を中心として多くのHPV感染が報告されています1)。
HPVには100種類以上の型があり、その中で悪性の病気(がん)の発症に関係する型(=ハイリスクHPV)と良性の病気と関係する型(=ローリスクHPV)があることが分かっています。(HPV(ヒトパピローマウイルス)って、なに?)
このハイリスクHPVが、性交渉などによって子宮の入り口(=子宮頸部)の細胞に感染しても、すぐに子宮頸がんになるわけではありません。
風邪を引いてもいずれ治るように、HPVが子宮に感染しても、ほとんどの場合には自分の免疫の力でHPVを排出することができます。
しかし、10人に1人ほどの割合でHPV感染が続いてしまい、その状態が5~14年続くと、子宮頸部異形成と言われる子宮頸がんの前段階、もしくは子宮頸がんが発症すると報告されています2,3)。
子宮頸がんの前段階になった場合でも、自然に治る可能性があります
しかし、子宮頸がんの前段階(=子宮頸部異形成)になった場合でも、自然に治る可能性があります。
日本のデータでは、軽度の異形成であれば約60-70%、中等度であってもおよそ50-60%の割合で、2年以内に病変が消えたと報告されています4)。
異形成が治る割合や治るまでの時間はHPVの型(種類)によって異なります。
また、患者さんの年齢によっても異なり、例えば20代では30代以上と比較して、中等度の異形成が治る割合は高いと報告されています4,5)。
異形成の状態が長く続くと、子宮頸がんを発症するリスクが高まるため、定期的な子宮頸がん検査を行います
ハイリスクHPVに感染した患者さんでは、5年間のうちに子宮頸部異形成の状態がより悪化していく可能性は、軽度の異形成ではおよそ7-8人に1人、中等度の異形成ではおよそ3人に1人と報告されています4)。
そのため、日本では軽度または中等度の異形成に対して、HPVの型を検査で確認した上で、慎重に病気の進行もしくは改善があるか様子をみていくことが一般的です。
一方で、高度異形成の患者さんは2年以内に約30%の割合で、子宮頸がんが発症すると報告されているため、早めの治療が必要になります。
なお、この場合は子宮全てを取らずに済むことがほとんどです。
まとめ
ハイリスクHPVが子宮頸部の細胞に何年間も感染すると、そのうちごく一部の方では子宮頸がんを発症してしまいます。
がんになる前に、自分の免疫の力でウイルスを排除できれば良いのですが、再び感染してしまうこともあります。
このため、HPVワクチンの接種により、ハイリスクHPVにかかることを防ぐのが子宮頸がんの予防に最も効果的です。
執筆者 医師:三ッ浪真紀子
参考文献
1)Cancer Sci. 2009;100:1312–6.
2)Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2018;47:2–13.
3)Nat Rev Cancer. 2007;7:11–22.
4)Int J Cancer. 2011;128:2898–910.
5)BMJ. 2018;360:k499.